本連載は、セレッソ大阪のことを一人でも多くの方に知って頂き、クラブと共に夢を目指す“セレッソファミリー”としてお迎えしたいとの想いのもと、これまでの活動事例を交えながら、我々が考えるクラブとスポンサー様との理想のあり方について、全6回のシリーズ形式にてお届けいたします。
第5回は、セレッソ大阪のスポンサー様に、提携に至った経緯や企業から見たセレッソ大阪の魅力についてお話しいただきます。(※本稿は2部構成となり、前編はナカバヤシ株式会社様、後編は株式会社シクロ様にご登場いただきます)
長寿テレビ番組として知られる『新婚さんいらっしゃい!』のスポンサーをかつて長年務め、カメラの普及といった時代背景を追い風に『フエルアルバム』が人気商品となり、様々な事業展開を推し進めながら全国区の企業へと成長を遂げたナカバヤシ株式会社。
創業60周年を機にお世話になった地域への恩返しを試み、地元大阪では2014年にセレッソ大阪とオフィシャルスポンサー契約を締結。2018年からはユニフォームパンツスポンサーとなり、サッカーファンの間でも認知度を高めている。
スポンサー活動を通じ、新たな事業にも挑戦しているナカバヤシのこれまでの取り組みについて、事業戦略部部長兼広報IR室室長の秋田良治氏にその面白さや喜びを語ってもらった(※インタビューは2021年6月に実施)。
──まずは、ナカバヤシ株式会社はどんな会社なのか教えてください。
秋田:ナカバヤシはもともと1923年(大正12年)に図書館製本や古文書修復の会社として始まりました。その後、1951年に株式会社化して、手帳やノート、アルバムなどの紙の加工製品から事務機器、エネルギー発電や農業など、多岐にわたる事業セグメントを取り扱う企業へと成長してきました。看板商品である『フエルアルバム』は、40~50代以上の方々には特に馴染み深いアイテムかもしれませんが、現在でもロングセラー商品として多くの人にご利用していただいています。
(ナカバヤシの看板商品であるフエルアルバム)
──セレッソ大阪と初めてスポンサー契約を結んだのは2014年でしたが、その経緯やきっかけは何だったのでしょうか?
秋田:設立60周年イヤーとなった2011年に、会社として“還暦”を迎えたのを機に今までお世話になった地域、社会に恩返しをしていこうという大きな方針を掲げ、地元の大阪にもどのような恩返しをしたら良いかと思案していました。当時は女性や学生への知名度向上が弊社の課題となっており、カープ女子やセレ女といった言葉がクローズアップされていたこともあり、Jリーグクラブのサポートで知名度向上の課題地域への恩返しの課題解決をしようと考えたわけです。大阪には北と南にそれぞれJクラブがありますが、弊社は堺市初芝に工場とオフィス、南河内郡の千早赤阪村には関西物流センターがある。南北でいえば、南部に拠点が集中していますし、南のエリアに住んでいる従業員も多い。必然的にセレッソのスポンサーになることが決まりました。
──スポンサー1年目の2014シーズンのことをどのように記憶していますか?
秋田:ちょうどそのタイミングで、世界的なFWディエゴ・フォルラン選手がセレッソに加入し、「こりゃ優勝するんちゃうか」と社内も一気に色めき立ちました。ところがまさかのJ2降格……意気消沈しましたね。ただ、降格が決まった翌日「選手を流出させてはあかん」、「1年でJ1に戻ってもらいたい」という想いで、クラブ側に「スポンサーとして、なんとか来年J1に戻れるよう応援したい」と増額を申し出たんです。実際のところ、復帰には2年かかってしまいましたが(笑)。
(ナカバヤシサポーティングマッチで、ナカバヤシのロジカル・ノートを無料配布する様子)
──スポンサー額を増やしたことで、どのようなメリットがありましたか?
秋田:当然できた取り組みもありました。一番は冠試合です。スポンサードした本来の理由はナカバヤシの社名や商品の認知度を高めたいという目的がありましたから、小学生が数多く観戦する日程を選択して「ナカバヤシ サポーティングマッチ」を実施しました。入場者に弊社のロジカル・ノートを無料配布する企画で、配るのはアルバイトではなく弊社社員。普段、営業活動やデスクワークをしているとお客様の反応を直に触れる機会はめったにないですが、社員が直接手渡すことで目の前で受け取った子どもたちが「やったー、ロジカル・ノートや!」と喜び反応する姿に触れられます。仕方なく協力してくれた社員もモチベーションは上がりますよね。冠試合が社員のコミュニケーションを活発にする効果もありました。
──2014年以降、スポンサーを継続されています。その理由はどういうところにあるのでしょうか?
秋田:ひとことで言うと、いろいろなメリットを感じているからですが、私が面白い試みだなと思ったのは、セレッソのスポンサーだけが集まり、クラブ主催のビジネス交流会が開催されたことです。そのセミナーではヨーロッパのサッカークラブを例に挙げ、スポンサー活動とは単に自社の認知度向上、イメージアップといった広告宣伝的な目的だけでなく、クラブを利用し、新たなビジネスに生かすこともまた重要なスポンサー活動のメリットであることを様々な事例を紹介しながら講義していただきました。その時、「もっと自由にセレッソを使っていいんだ」という気づきを与えてもらったことによって、スポンサー活動に対する意識も大きく変わりました。
(ナカバヤシと大阪たこ焼き「和なか」が共同開発した「れたこ」)
──意識が変わったことで、新たな発見や気づきは、どんなことがありましたか?
秋田:セレッソのスポンサー企業同士の交流が増えましたね。弊社が農業を始めたことで、セレッソのスポンサーであり、外食産業向けの卸業をされている株式会社中谷食品さんの展示会に出展させてもらったり、たこ焼きのわなかさん(株式会社和なか)とも関係を持つことができました。ちょうど当社の水耕栽培のレタスでたこ焼きを挟んだ‟れたこ“というたこ焼きサンドを、ヨドコウ桜スタジアムのこけら落としで販売します。このようにセレッソを介して、いろいろな企業とつながりを持てるようになったのは、意識が変わったことによる効果の一つだと思っています。
(オフィスのプライバシーを守る調光ガラス「N-Smart」の通電ON/OFFの様子)
──セレッソを介して、タイ企業との新規事業も始められたそうですね。
秋田:そうです。アジアのサッカー少年たちの夢を応援する『ASEAN DREAM PROJECT』というテレビ大阪の番組にかかわった際、その意識変化がきっかけとなり、ビジネスマッチングに成功したんです。東南アジアのサッカーの上手な子どもたちを選抜し、日本に招待してセレッソのアカデミーチームと親善試合と行うという企画でしたが、私たちは番組のCM協賛ではなく、プロジェクト運営に協賛することにしました。東南アジアは弊社にとって経営戦略上、重要な地域で、このプロジェクトを通じて少しでもASEAN諸国の皆さんにナカバヤシという企業を知ってもらいたい気持ちがありました。私もセレクションの見学をするためにセレッソとパートナーシップを結んでいるタイのバンコク・グラスFC(現BGパトゥム・ユナイテッド)のグラウンドに出向いたんです。そこでチームのスポンサーであるガラスメーカーのバンコク・グラスの方々と出会い、何気ないサッカー談義からビジネスの話題へあれよあれよと進展し、その後、本腰を入れて商談するに至りました。2020年7月には業務提携を締結し調光ガラス「N-Smart」の商標名で事業化できました。まさにあの「もっと自由にセレッソを使っていいんだ」という気づきがきっかけとなり、新たなビジネスを生み出すことができたのだと実感しています。
──セレッソをスポンサードして8年目となります。社内におけるサッカーやセレッソの認知度も上がってきていますか?
秋田:それはもちろんです。サッカーを観戦し応援するだけでなく、自分たちでもやってみようと社内でフットサルチームが結成されました。舞洲の練習場を借り切ってヤンマーさんのチームとフルコートで試合を行うなど、サッカーをキーワードに社員同士、異業種の方々とのふれあいも生まれています。また、今年はセレッソ大阪堺レディースの選手を新卒社員として採用しました。これからもサッカーのみならず、夢に向かって頑張っている人たちを少しでも応援していきたいと考えています。
(ヨドコウ桜スタジアムのナカバヤシゲートとユニフォームパンツスポンサー)
──2018年からはユニフォームのパンツスポンサーとなり、つい先日にはヨドコウ桜スタジアムのゲートのネーミングライツ契約を結びました。年を追うごとにセレッソとの関係を強化されていますが、その思いについても聞かせてください。
秋田:スポンサードすることでビジネス上いい影響が出ていることもありますが、根底にはセレッソで得た利益はセレッソに還元していこうという考え方があります。会社は利益を追求する側面もありますが、恩返しがきっかけでスタートしたスポンサー活動なので、還元のスタンスが生まれます。スポンサーといえど、結局は人と人とのつながりが肝心。チームを強くしていこう、クラブを、会社を良くしていこうというミッションをセレッソもナカバヤシも共有しており、共鳴できていることが関係強化の大きな要因だと感じますね。
(ナカバヤシには新オフィスのレイアウト設計から移転までサポートいただいた)
──最後に、セレッソとのスポンサー契約を検討している方に向けてメッセージをいただけますか。
秋田:スポンサーメリットはたくさんあります。知名度やイメージアップを目指す以外にも、セレッソの他のスポンサーと接点を図る目的があれば、先述のタイのバンコク・グラスとの事例のように、クラブ側が紹介やサポートをしてもらえる利点もあります。むしろ私はビジネスツールの一つとしてスポンサードするという積極的な選択もあるのではないのかと思っています。
※第5回(後編)は、セレッソ大阪の特製クラフトビールを開発しているゴールドパートナー、株式会社シクロ様のインタビューをお届けします。